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【新連載・箱と根】夫婦ふたりで、できることから。梅の里「曽我」に暮らす菅沼夫妻に聞く、昔ながらの方法で自然と共に生きること

「箱と根」は、誰かの居場所や止まり木のような空間をつくる人、地域に根を下ろして暮らし・働く人の話をきく連載企画。箱根だけでなく周辺にある環境を含め、まちに関わる人々の様々な声に耳をすませ、みなさんに紹介します。

箱根の玄関口・小田原から小さな旅をはじめる

神奈川県小田原市。電車で都心から1時間半ほど揺られると、箱根の玄関口とも言われる小田原駅駅に到着します。都会的な顔を覗かせながらも、どこか懐かしくなる原風景を多く残すまち。

小田原は、古くは城下町として発展し、旅人の疲れを癒す宿場町としても栄えてきました。西部は箱根連山につながる緑深い山々を望め、東部は「曽我丘陵」と呼ばれる低い丘陵地帯。丘からは、相模湾・伊豆半島・箱根連山・富士山・丹沢山塊など素晴らしい展望が広がります。

相模湾に面し、温暖な気候に恵まれていることから、海の幸・山の幸の両方を楽しめる豊かな地域です。今回は、小田原にある曽我原という地域で暮らす、菅沼一雄・桂子夫妻にお話を伺いました。

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左から、菅沼一雄さん、妻の桂子さん

昔ながらの暮らし、今できることを続ける

梅の花が咲く3月、菅沼さんを訪ねました。国府津駅から車で10分ほど走ると、小高い山腹を縫うように巡る小路と、曽我梅林の景色が広がる曽我地区に到着します。

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早春から春にかけての見どころは、町中が梅林であること。曽我梅林は、約35,000本の梅の開花を楽しむことができ、2月初旬から約1ヶ月を通して「小田原梅まつり」が開催されています。

可憐な白い花が咲く十郎梅をはじめ、白加賀や杉田など様々な白梅と、紅梅や豪華なしだれ梅も町中のいたるところに。

梅の花の香りに包まれて歩く春の道。なんだか、うっとりとしてしまいます。この町で、もしも暮らしたなら春が待ち遠しくなりそうです。

ー小田原・曽我原で育まれている菅沼さんの暮らしは、どんな時間なのでしょうか。

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桂子さん 朝早くから、1年を通して野へ出て働いています。雨の日も風の日も、休むことなく続けてきました。私の家も農家でしたが、農業に関わることになったのは嫁入りしてから。農家に育ったから農家暮らしはわかっていましたが、実際に自分でやってみてわかることも多いです。

一雄さん うちは、畑仕事など農作業を家族でやっています。昔からの暮らしをしながら、今できることを毎日しているんです。大変なことは、息子や娘たちに手伝ってもらいながら。なんとか続けられています。

桂子さん 若い頃から働き通しで、趣味らしい趣味はありません。いつか時間ができたら、お習字をしたいとは思っています。今は2人とも年をとっているので、疲れたときは少し休まなくてはいけなくなりました。それでも、続けていけることが嬉しいです。

お話を聞いていて印象的だったのは「野」という言葉。それは畑仕事をする場所のこと。ずっと夫婦2人で働いてきたという菅沼夫妻。お話をきいていると、年を重ねる中で畑仕事を続けてきたことへの愛着も感じます。暮らしの中で楽しみにしていることを聞いてみました。

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菅沼さんが暮らす家。手入れの行き届いた季節の花も育てられていた

いつもの景色は、いつも楽しい。野良着のままドライブへ

家族や友人が畑仕事を手伝ってくれることもあるけれど、基本的には夫婦で力を合わせた二人三脚の日々を送っている菅沼夫妻。疲れたときは2人で気分転換に、小田原や箱根へドライブに出かけるのだそう。

桂子さん たまには、どこに行こうか決めてお茶をすることもあります。でも普段は、畑仕事の合間に野良着のままでドライブに行くんです。この辺りを車で走っていると、静かな気持ちになって。なんだかそれだけで楽しい。

わたしは、最初は景色を見ているんですけれど、いつの間にか眠たくなって。トラックの揺れが気持ちいいんでしょうね。だから寝てしまいます。

ドライブの話をしながら少女のように笑う桂子さんの姿は、ほんとうに楽しそう。 身近にある風景や空気感から受ける喜びを感じます。

何気ない日常の中に、楽しみをみつけていく秘訣を垣間みた気がしました。 親しんだ景色の中に、いつもと変わらない姿があること。それは、当たり前ではなく奇跡のようなことかもしれません。

生まれ育ったからこそ思う、つながりの大切さ

ー曽我のことは、どのように思っていますか?

一雄さん わたしは、曽我の町を最高だと思っています。それは、生まれ育ったからこそ思うのかもしれません。相模湖があり、富士山が見えて、箱根も近い。そう、わたしは幼い頃から、曽我に暮らしてきたのだなと感じることがあります。

一雄さんは、顔をほころばせながら目を細めて言います。曽我山の見晴し台からは、相模湾・富士山・箱根連山・足柄平野が一望できるのだそう。

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少年時代を生まれ育った小田原で過ごした2人。一雄さんは、千葉の大学に入学し卒業後に家業を継ぐべく曽我へ帰ってきた。 後に、桂子さんと出会うことになります。

一雄さん 当時は、大学を卒業したら家を継ぐという約束で大学へ行かせてもらいました。そうじゃなければ、行かせてもらえなかったでしょうね(笑)。

そうして数年後に、桂子さんと出会い結婚して家族になった。娘や息子が産まれたことで、家族が増えて賑やかになりました。学生時代の友人達と、今も同窓会などでも会います。そういうとき、佳子さんが快く送り出してくれる。ありがたいことですね。

桂子さん 夫は農業が大好き。家族で過ごす時間も楽しみですし、友人たちが元気で、今も一緒に時間を過ごせていることは、良いことだと思います。

まちと人は共同体。地域で一緒にやっていくことの大切さ

幼少期の話を聞いているとき、子ども時代の姿が気になって菅沼さんに写真を見せてもらいました。アルバムには当時の思い出がいっぱい。「これは、わたしが生まれ育った早川の海ね」と 桂子さん。写真を一緒に見つめていると、タイムスリップをしたかのように当時の様子が感じられました。

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一雄さん わたしたちが幼い頃は、子どもがたくさん集まるのが当たり前で。走り回って、飛び回って遊んでいました。早く走るとか木に登るとか、そういうことをするだけで楽しくてね。子どもたちは、どこの家にも上がりこんでいるというふうでね。その姿が自然でした。

桂子さん お正月は、コマ回し、竹馬、凧揚げなんかもして。女の子同士では、羽子板もしたわねー!楽しかった思い出があります。

一雄さん むかしは、共同体という感じがしっかりありましたね。町内で参加する行事もたくさんありましたし、地域で一緒にやっていくという「つながり」が、今よりも多くありました。

そういった意味で今は、「つながりが薄くなっている気がする」と一雄さんは続けます。

一雄さん 年々、このあたりも子どもの人数も減っています。もちろん、地域を思い積極的に活動している人もいるんです。世代を区切らず、若い人たちとの交流をしていくことも大切に感じています。

受け継がれていく歴史と、失われていく習わし

一雄さん 時代の移り変わりや変化の中で、家族の規模が小さくなって、人の集まりも少しずつ減っていく。年寄りも若い者も、むかしは一緒だった。子どものための祭りもたくさんありました。

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曽我の里に伝わり、今もなお続いている行事もあります。 毎年5月に開催されているという、「曽我の傘焼きまつり」も、そのひとつだと教えてくれました。

元々は、曽我物語の曽我十郎・五郎兄弟が父の仇討ちのために、闇夜の中を松明の代わりに傘を燃やして、討ち取ったと伝えられている故事にちなんだお祭り。忠臣蔵と並ぶ日本3代仇討ちの1つとしても有名とされています。

お祭りは、松明行列や武者行列、曽我の浮世絵の展示、傘焼き、竹灯籠、子ども相撲など多彩な内容です。しかし、この祭りも伝統を受け継ぎ、保存を続けていきたいと願う人々の思いあってのこと。 今につながっていることの多くは歴史として残っていますが、失われていく姿や形もあります。

一雄さん だんご焼きは、今も続いている行事で。みんなが家庭でだんごを作って、持ち寄って焼いて食べたり神様にもあげるんです。大根が入っていたり、味や形も家によって違います。このだんごを食べると、病気にならないとも言われているようです。

次の世代につなげるために、何ができるのだろう

「地域の中で、子どもが少なくなっているのを感じる」という菅沼さん。曽我で育まれてきたことを、次の世代につなげられたらと話す姿が印象的でした。

暮らしや働きといっても決まった形はなく、住まう人の数だけ無数にあるのだと思います。それぞれが個別に、自分をいかして生きている。 1人ひとりの生き方に直結していること。

これまで脈々と受け継がれてきた文化や伝統、風土や気候に合った知恵や技術の中で、形を少しずつ変えながら根づいていること。

きっと全ては、少しずつ積み重ねたことや、営まれてきた日々の中にあるのではないでしょうか。

みなさんの暮らすまちにも、受け継がれている歴史や「つながり」がきっとあるはず。調べるのは面倒だと感じるかもしれませんが、そんな時は古くから暮らしている人に話を聞いてみませんか?

「箱と根」では菅沼夫妻に、引き続きお話を聞いてみたいと思います。

■インタビュー協力:菅沼農園

(インタビュー・文:藤本あや 撮影:内田悦敬)

ライター、インタビュアー。
神奈川県を拠点に、きく・話す・書く・つくる・伝える仕事に関わる。
興味と関心は、日常と暮らしの延長線上にあること。衣食住と人。
小さな旅を続けながら、いろんな地域でインタビューと対話を重ねる。
ものづくりユニット・KULUSKA(クルスカ)でデザインとワークショップを担当。暮らしながらつくる実験室「LIFE&CRAFTS LAB」主宰
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