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【連載・箱と根】今日も夫婦ふたりで野へ出かける。菅沼夫妻が、小田原市曽我に農家ひとすじで暮らす理由は「ずっと農家が楽しい」から

「箱と根」は、誰かの居場所や止まり木のような空間をつくる人、地域に根を下ろして暮らし・働く人の話をきく連載企画。箱根だけでなく周辺にある環境を含め、まちに関わる人々の様々な声に耳をすませ、みなさんに紹介します。

どこで、どんなふうに生きていく? を考える暮らしの現在地

どこで何をして生きていくのか。みなさん一度は、考えたことがあるのではないでしょうか。

地域、仕事、家族、暮らしなど、「こうだったらいいな」という理想と現実があると思います。とはいえ、全てが理想通りにはいかないもの。人知れず悩んでしまうこともあるかもしれません。

日々の暮らしの中で、「働くこと」は生きることに直結しています。しかし、生きること=働くことではないという方も多いはず。どんな仕事や働きのなかにも、大変さだけでなく楽しみがあるのだとしたら。わたしたちは、どこに楽しみを見つけているのでしょう。

現代社会では、色々な働きかたを模索するうちに、手にしているのかもしれません。また一方で、昔ながらの暮らしをしながら、今できることを続けるという選択もあります。

前回に引き続き、ご紹介するのは菅沼一雄・桂子夫妻の暮らしかた。お話を伺っていると、どこか懐かしくもありながら、日常生活と地つながりなもの。それは代々受け継がれ、根づいていた暮らしそのものと言えるかもしれません。

今回は、夫婦ふたりで農家を営んできたなかで、今感じているお互いへの思いを聞いてみました。

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左から、菅沼一雄さん、妻の桂子さん

巡りゆく季節。新しく花を咲かせたのは、ブルーベリー

神奈川県小田原市にある曽我地域。前回訪れたのは、梅の里として有名な曽我らしく、町中に梅の花が咲き誇る春の木漏れ日が心地よい日のことでした。

今回は、菅沼さんからブルーベリーの花が咲いたことを聞いて、「菅沼農園」を訪ねました。ここから見える風景を、まずは写真とともにお届けしたいと思います。

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快晴の日は、富士山が真正面に見えるのだそう。夕焼けも綺麗で、仕事を終える頃に眺めている。四季を通じて、美しい景色があらわれるのが楽しみだと一雄さんは言います。

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菅沼さんの農園では、若い苗木がすくすくと成長していました。

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農園内には、蜜蜂の巣箱が置かれています。ブルーベリーの花を愛しむように飛びまわる蜜蜂。

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まだ若いブルーベリーの実。少しずつ色づき、収穫を迎える頃には粒も成長を遂げる。花が咲き、実を結ぶという自然の姿が、ここにはありました。

年齢を重ね変化する働きかた。諦めるのではなく、今できることを

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ーどうして、この場所でブルーベリーをつくることになったのですか?

一雄さん 以前は、この場所でハウスミカンを25年間つくっていました。手間と労力がかかるけれど、だからこそこの仕事が好きで続けてこれました。年齢を重ねて体力がなくなってきて、ハウスミカンを育てるのは大変になってきました。

そこで、3年前にハウス栽培でブルーベリーを育てようと決めました。本当は、ハウスミカンに魅力を感じていたので続けたかったです。

ーなるほど。ハウスミカンを続けたかったのですね。

桂子さん ハウスミカンを育てるのは、1年中ずっと気がぬけない仕事なんです。高いところにも登りますしね。年齢とともに働き方も変わっていきました。

一雄さん ここで栽培している品種は、11種類くらいありますね。この土地に、どの品種が適合するかわからないので、今は試しているところです。ハウス栽培では、生食用を考えて取り組んでいます。外のネットがかけてある露地栽培はジャムなどの加工食品に向いています。

生食用に大粒の実をつけるハイブッシュ系を、ジャム用に小粒でしっかりとした実をつけるラビットアイ系を育てているのだそう。

一雄さん ジャムなどの加工品も、家族でつくっていますね。ブルーベリーの収穫を終えたあと、娘と息子と一緒に手づくりしています。甘酸っぱくておいしいですよ。

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生食用に苗木を育てているハウスと、加工用の路地栽培スペースが並んでいます

ーハウス栽培のブルーベリーを始めて3年。でも実は、ブルーベリー作りに関わるのは長いのですよね?

一雄さん はい。作り始めて29年になります。以前はハウス栽培のミカンをつくってきました。しかし、ミカンばかりを栽培するには、面積が増えても単価が落ちてきて厳しい状況がありました。当時、ミカンに代わるものが何かないかな?と探していたところ、神奈川県園芸試験場の職員の方から、ブルーベリーがいいんじゃないかとアドバイスをいただきました。

そこから、東京の花小金井にある、東京農工大学から苗木をいただいた一雄さん。同大学は、日本でブルーベリーの栽培に取り組んだのが一番早かったと言われているのだそう。

ーブルーベリーを育ててみてどうでした?

一雄さん 最初は、初めて育てることもあり大変だったので苦労しましたけどね。育てるのは楽しいですよ。ブルーベリーは、目にいいということがニュースなどで広がり人気がでました。そこから、色々な方がつくり始めて生産量が増えましたが、目新しいものではなくなりましたね(笑)。

ただ、ハウスミカンに比べると、手間はそんなにはかからなくなりました。除草剤をつかわなくてよかったり、農薬散布をほとんどしなくて済みます。手作業で草刈りなどはしますけれど、それほど苦ではないですね。収穫の時期に、人手が足りないかなと感じるくらいです。

ー収穫時期に人手が足りない。となると大変ですよね?

桂子さん そうですね。収穫には、みなさん昔から来ていただいてる人ばかりで行っています。ずっと手伝ってくださっている方で、70歳〜80歳くらいの方がいますね。若い方で70代なので、いつまで手伝っていただけるだろうかと思っています。

お話の間も、リズムよく枯れ葉や雑草を採ったり、苗木の生長具合を見ながらブルーベリーのことを教えてくれました。まだ若い小さな実をつけたブルーベリーを見ながら、今年の夏の収穫のお手伝いにいきたいことを伝えました。

家を守り育むこと、温めあうような家族のかたち

ー桂子さんとは、ずっとふたりで農業をされてきましたよね。どんな気持ちでお互いを見つめていますか?

一雄さん 結婚してから、農業の道に入ってきてくれましたからね。いろいろ初めてのことばかりだったと思います。それでも辛抱強く、よくやってきてくれたと思っています。

桂子さん 農業の仕事は初めてですが、わたしは農家に生まれたので感覚的には知っていました。ずっと母が一生懸命働く姿を見て育ったんです。父は身体が弱かったので母が男手のように働いてくれました。何しろ、ずっと母がやってきたことを見てきたので。わたしなんか、まだまだという気持ちで今日まできました。

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ーご両親の姿を見て育ったのですね。結婚して47年目の今、感じていることはありますか?

桂子さん 今の時代と違って、長男の嫁にきたからには、その家を守らなきゃいけない。親をおくらなければいけないという環境です。それが当たり前でもあります。それでも、主人はわたしには勿体ないくらいの人だから。子どもも長男1人、長女と次女の2人に恵まれましたしね。いろんな苦労もありましたけれど、人間的に素晴らしい人。だから、大変なときも耐えられたんだと思います。ありがたいことですよね。

これからも、少しでも長く農家ができるように「身体に気をつけて生きていこうよ」と毎日話しているのだと桂子さんは話します。2人だからこそ、やってこれたことがあると振り返ります。

桂子さん 農家は、ひとりになっちゃうと何もできないですから。なるべく2人でやっていこうと言いながら。あと願うのは、わたしたちの後を継いでくれたらと願うだけです。息子も嫁も、よくやってくれています。

一雄さん 農家が楽しいから。これからも、農家一筋です(笑)

暮らしを温めること、誰かの背中をみつめること

自然がたくさんある曽我地域のことを、「とてもいいところだと思う」と笑顔で話す菅沼夫妻。年齢を重ねたことで、働きかたは変わっているけれど、全てを諦めるのではなく小さな変化を積み重ねています。

そして、地域のいろんな人たちや家族に支えられ、何かあると助けてくださる人がいたことを伝えてくれました。

菅沼夫妻のお話をききながら、暮らしを温める原動力が生まれる理由を知ることは、足元を照らすことにもつながると感じました。それは、身近な誰かの背中を見つめることかもしれません。

人と関わりあうことで、自分ひとりでは気づけなかったことに気づくことも。働きかたも、暮らしかたも、自分自身にあったかたちを選んでいけるのだと思います。

働く楽しみを少しずつ見つけることで、生きる喜びにつながっていくのではないでしょうか。

「箱と根」では、箱根に関わりのある地域で、暮らし・働くひとに引き続きお話を聞いてみたいと思います。

【番外編】菅沼農園でブルーベリーもぎとり体験!

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今回ご紹介した菅沼農園では、ブルーベリーをもぎとりたい人を歓迎しています。自分でブルーベリーを摘む体験をしてみたい!という方に向けて、7月末〜8月末までの期間限定で農園を解放しています(要電話予約)。ぜひ、この機会に菅沼農園を訪れてみませんか?

◎ブルーベリーもぎとり体験
入園料:なし、要電話予約
販売:1kgあたり、1,300円
時期:7月末〜8月25日くらいまでを予定
お問い合わせ先:菅沼農園 0465-42-0823 (菅沼)
*お問い合わせ可能時間は、夕方18:00〜20:00まで
*もぎとり時期は、収穫量につき前後する可能性があります
*もぎとる箇所は露地栽培エリアとなります。ハウス栽培ではないこと予めご了承ください

■インタビュー協力:菅沼農園

(インタビュー・文:藤本あや 撮影:内田悦敬)

ライター、インタビュアー。
神奈川県を拠点に、きく・話す・書く・つくる・伝える仕事に関わる。
興味と関心は、日常と暮らしの延長線上にあること。衣食住と人。
小さな旅を続けながら、いろんな地域でインタビューと対話を重ねる。
ものづくりユニット・KULUSKA(クルスカ)でデザインとワークショップを担当。暮らしながらつくる実験室「LIFE&CRAFTS LAB」主宰
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