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2016.06.21

バーテンダーの酒の日々 Vol.4

「泥水をすすれ」

何度も聞いた言葉。ある時は酒場で、自称経営者から。ある時は業界のベテランから。ある時は職場の上司から。

その度に「自分から泥水を飲む奴はマヌケだ」と強くこたえていた。

刹那的に出た良好そうな結果と、それで得た刹那的な金をバラまきながら、中腰で若い女のケツを追い回すダサい大人たちの格好つけた言葉だと思っていた。だらしない所をゴマかすだけの言い訳のような説教だと思っていた。その行動も言葉も、俺にはマヌケにしか感じられなかった。

そして俺は、マヌケにだけはなりたくなかった。マヌケな大人達には何も言いたくはない。俺は、こんな大人達の言葉に耳をかたむける事をやめた。こいつらから何かを得ようとする事を諦めた。


バーへの憧れと失望を経験した後に出会ったバーのマスターバーテンダーは、俺の薄っぺらい価値観をぶっ飛ばしてくれた。カクテルを作る前に交わす会話。会話からつながるカクテルや酒達。その所作。語る言葉は少なくても、説得力のある一言や一動作。マスターにも、バーテンダーという職業にも、急速に惹かれていった。

ギターとマイクを売っ払った日、マスターがはじめて営業後の酒の席に誘ってくれた。夢をあきらめた俺は、ここぞとばかりに大人達へのグチをはきちらし、希望を見出せない明日からの不安をぶつけた。自分の夢から逃げた言い訳をぶつけた。黙って聞いていたマスターが静かな口調で言った。

「お前は、夢を諦めたんではない。夢から諦められたんだ。ニューヨークでの3年間、俺はいつも泥水で腹がいっぱいだった。泥水なんか飲むつもりじゃなかったのにな。でも、求めるものから、あきらめられるような奴にはなりたくなかった」

逃げてしまいたくなると、逃げる為の言い訳を考える。逃げる理由を、もっともらしく編集する。マヌケな大人達と俺とは何が違うのだろうか。マスターの言葉が、俺こそがマヌケだという事に気づかせてくれた。

それから、俺は、本当に自分が欲しいものは何かを自分に問いかけた。自問自答の中で、一進一退しながら出た答えは「バーテンダーになりたい」だった。

自分が求めるものに、あきらめられない様にしよう。失敗しても失望しても、何度でも何度ででも、はじめたらはじまりだ。泥水なんか飲みたくはないけれど、泥水から逃げる事をやめよう。自分の夢にあきらめられない奴になりたい。マヌケにはなりたくなかった。そう誓いながら、バーテンダーの扉をたたいた。


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スカイ島 唯一無二のシングルモルトウィスキー「タリスカ」

ヒューとケニスのマカスキル兄弟によって1830年に設立された時には、スカイ島には、7つの免許を持つ蒸留所と、数十にもおよぶ無免許の蒸留所が存在していました。しかし、1860年代には「タリスカ」以外のすべての蒸留所が閉鎖してしまいます。孤立した「タリスカ」は、数々の経営者に売却を繰り返されながら、独自の創意に頼り、発展していきます。創業当時の製法が頑に守られ唯一無二と言われる豊満で複雑な味わいのウィスキーになっていきました。スカイ島の「タリスカ」は、経営に失敗して手放されても、必ず誰かが経営に手を挙げる蒸留所なのです。

ボトルに書かれている「MADE BY THE SEA」
このスカイ島の海を、誰もが無くしたくはなかったのです。そして、他に似たものが無い、その海のウィスキーは、現在も存在しているのです。

あきらめきれない人達によって確立された唯一無二の存在。
私にとって「タリスカ」は、憧れの象徴なのです。

2015年12月にあうら橘入社。バーテンダー歴25年。
ワイナリー・酒蔵での酒造りの修行後、ソムリエ・利き酒師の育成にもたずさわる。
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