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秦野発の技術×野菜。エンジンバルブメーカー出身の会社が目指す『食』の姿とは

最近、LED植物工場での野菜栽培に関する記事を見るようになってきました。季節や天候に左右されないこの栽培方法は、日本国内でも、大手電機メーカーや商社も参入しており、今後の市場拡大の可能性に注目が集まっています。耕地の確保や水不足に悩む国や地域でも採用され始めています。

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紫色の室内で、野菜が育つ風景。LED野菜栽培の様子です。実は、この野菜をあうら橘でも使用しています。

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森の舘にご宿泊のお客様へ、お刺身の入った「海鮮サラダ」をご提供しています。そのサラダで使っているベビーリーフが、このLED栽培によって作られています。

あうら橘では、このベビーリーフを2016年の春から使い始めています。このLED栽培の野菜は、露地物野菜(畑で育てた野菜)とどのように違うのでしょうか。あうら橘の板前に感想を聞いてみました。

  • エグみや苦味が少なく、野菜本来の味がしっかり出ている
  • いつまでも新鮮、痛みがすくないので廃棄部分が少ない
  • 無農薬栽培でありつつ、虫もついていない

このような答えが返ってきました。味も良く、調理しやすい点から、非常に重宝しているそうです。このLED栽培は、果たしてどのようなものなのでしょう。今回はこのLED栽培で野菜を作っている株式会社Shune365(シュンサンロクゴ)さんに取材させていただきました。

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Shune365本社ビル[神奈川県秦野市]

Shune365さんは、神奈川県秦野市に本社のある日鍛バルブ株式会社の新規事業として2015年4月に設立されました。日鍛バルブさんの平沢工場内のビルでLED栽培を行っています。最近では、メディアにも登場し注目を集めています。

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お話を伺ったのは、Shune365代表の伊藤広生さん。会社立ち上げのときのこと、生産体制について、これからの展望などお話していただきました。

(取材、文:高橋佑弥、撮影:槙悠吾)

遊休施設を有効活用すべく、新規事業プロジェクトチームが発足

―「親会社の日鍛バルブさんは、自動車に使われるエンジンバルブのメーカーでいらっしゃいますが、どのような経緯でLED栽培の事業をはじめたのでしょうか。」

伊藤広生さん(以下伊藤さん)「日鍛バルブ時代、私は総務にいたんですが、山形に持っていた会社の遊休地を、太陽光発電所として活用したことがありました。それが終わって、今度はこの平沢工場の遊休施設を有効活用しようという話がでました。この施設もどうにかしようと。秦野の水が名水として認知され始めていたタイミングでもありましたし、『食』に関する事業を立ち上げることになりました。もともとアウトドアは好きでしたし、家庭菜園はやっていましたが文字通り『畑違い』の事業ですね。」

※秦野の湧水は環境省の「~名水百選30周年記念~『名水百選』選抜総選挙」で「おいしさがすばらしい『名水』部門」第一位に選ばれています。

―「新しい事業を始めるにあたって、意識したことはありましたか。」

伊藤さん「チームの合意形成のスピードですね。新しいことを進めるためには、スピーディな動きが必要だと思っています。今、会社には5人のメンバーがいます。社内でプロジェクトチームを編成するにあたっては、あえて普段から共に仕事をしている近い社員でやらせてくれと、会社にお願いしました。その承認が得られたのは良かったと思っています。長年の付き合いがあるから、お互い言えることや逆に言わないで良いこともおのずと分かるんです。Shune365は相手のことがよくわかっているメンバー同士だから、合意形成がしやすい。」

―「確かに、いろいろな手続きで時間がかかると思います。」

伊藤さん「そうですね。物が言いやすいということは、風通しが良いということですから。私は社長という立場ですが、年齢で言えば2番目に若いんです。私自身も他のメンバーからいろいろと言われながらやっています。」

培ってきた技術と新たな視点

―「野菜栽培の事業を始めて、事業も仕事内容も大きく変わったと思います。伊藤さんご自身も変わったことはありますか。」

伊藤さん「いままでのサラリーマンの仕事とは、かなり視点が変わりました。営業で街のレストランに行くことがあります。お店の多くは家族経営されているんですね。そこでは、やれることは自分達自身でやるしかない。みなさん限られたメンバーで仕事を分担したり協力したりしている。私たちの会社も5人のメンバーで運営していますので、営業もするし、配達もする。種まきもみんなでやります。すべてが自分たちにかかっているんだと感じますね。日々多くのことを学ばせていただいています。」

―「実際の生産体制はどのようにされていますか。」

伊藤さん「大口のお取引先に関しては、時期やそのお店の来客数に合わせて10%の変動にも耐えられる生産体制を敷いています。通常、レタスは露地栽培だと種まきをしてから収穫まで約60日ほどかかりますが、LED栽培ですと、だいたい42~45日程度で収穫できます。あうら橘さんにも出荷しているベビーリーフは、種まきから21~25日ぐらいで出荷しています。野菜の成長サイクルと、予想される受注量を計算して種まきをしています。」

―「その中で、日鍛バルブさんが持つ、自動車部品メーカーとしての技術を活かせる部分はあるのでしょうか。」

伊藤さん「そうですね。メーカーでは合理的・効率的な品質管理を求められますので、作業の省力化や、より効率的な設備のレイアウトを考える上で活かせていると思います。種まきに関しても、当初は300個まくのに30分かかっていました。それが現在は10分くらいになった。出荷する際の野菜の収穫作業も効率化が図れてきています。このような改善は日鍛バルブ時代の経験が活かされていると思います。」

主婦よりシェフ

―「メディアでの掲載も増えてきているようですね。これからさらに注目が集まってくると思いますが、今後の販路や展望はどのように考えていますか。」

伊藤さん「Shune365の野菜はLED栽培で生産をコントロールできるため、価格が安定しています。普通野菜は価格が変動しますよね。露地物の野菜が安く市場に並ぶときには、我々の野菜は相対的に高くなってしまいます。例えばスーパーでレタスを買おうと思って、高いと感じたらどうしますか。」

―「私なら、もやしを買いますね。」

伊藤さん「そうですよね。消費者は高いレタスをそこで買わない。違う食材でその日の献立を考えると思います。それに対して、お店のシェフは料理のために必要とする野菜があります。レタスが高いからといって、もやしを使うことはできない。」

―「確かに、今までレタスだったところがもやしに変わったら、お客さんはすぐに気づきますね。」

伊藤さん「私たちは受注に合わせた生産体制をとれることから、安定的な値段で野菜を供給できます。『主婦よりシェフ』といつも言っているのですが、その点に魅力を感じていただける層は、確かにあると思っています。」

―「栽培品目リストを拝見しました。生産する野菜を決めるポイントは何かありますか。」

伊藤さん「私たちのLED栽培は水耕栽培ですので性質上、葉物野菜が中心です。今後も品目を増やしていきたいと思っています。LED栽培をやっているのは、私たちだけではありません。大規模に同じ野菜を栽培すれば単価は安くできるでしょう。我々はそこを目指すよりも、『サラダコンシェルジュ』になることを目指しています。私たちがサラダコンシェルジュとして野菜を提案し、提供していきたい。そのような視点で、葉物野菜やハーブを中心に栽培計画を立てています。サラダがおいしいお店はきっと料理がおいしいレストランです。サラダに力を入れるということは、料理のおいしさをしっかりと追及するお店ではないでしょうか。」

―「そうですね。すごく印象に残ると思います。現在の販路はどのようなところがありますか。」

伊藤さん「現在は5人のメンバーで配達できるエリアで販売しています。秦野市内では、エディブルフラワー(食べられる花)を販売しています。秦野市の花は『ナデシコ』でして、お菓子やお土産、料理にこの花を使っていただく取り組みをしています。秦野には丹沢に登りにくる人がたくさんいます。秦野市内でエディブルフラワーを展開していくことで、市外の方々に、秦野の花を食べる文化を広めていきたいです。」

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お話を伺った会議室には、ナデシコを使った料理コンテストの写真が飾られていました。

伊藤さん「また、市内の野菜を秦野野菜としてブランド化していきたいという思いもあります。私たちの野菜は水耕栽培ですので、土圧の必要な根菜類は作れません。同じ思いを持つ地元の農家の方とタッグを組んで、秦野野菜のブランドを作っていきたいです。」

―「最後に、今後もこの事業を展開していくうえで、大切にしていきたいことを教えてください。」

伊藤さん「食べものは、感想をもらえます。お客様においしいと言ってもらえる。感想を聞けることはとれもうれしいです。でもおいしさを作るのは、Shune365だけではできない。私たちがおいしいと思った野菜を、お店のシェフが調理して、ホールスタッフが説明して初めてお客様から感想をもらえる。Shune365と厨房、サービスをする人が一体になっておいしいものができる。この考え方は今後も大事にしていきたいと思っています。」


秦野の名水と長年の品質管理技術で育つ、地域の野菜

葉物野菜は約90%が水分でできているそうです。Shune365さんから、秦野の名水で育った野菜のおいしさを広めていきたいという思いを感じました。LED植物工場は全国にいくつかありますが、秦野の水で野菜を作る生産者も、秦野に工場ができて約50年の企業出身の方々です。秦野に根付いている人の営みが、この野菜に凝縮されています。秦野の魅力が新しい技術によって身近な食の場に登場しています。

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秦野には、自然があふれています。

インタビューの後、伊藤さんのご厚意でShune365さんの野菜を頂きました。軽く水洗いしただけのベビーリーフを何もつけずに食べてみました。

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今回撮影担当の当館スタッフ槙

いつもあうら橘で見ているベビーリーフ。あらためて食べてみると、みずみずしさやほのかな甘み、野菜らしい新鮮な香りを感じることができました。

冒頭にもあった、実際の工場内も見学させていただきました。Shune365さんのビルは5階建てなのですが、現在生産で使用しているのは1フロア分とのこと。今後も生産量を増やしていかれるそうです。

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お話を伺ったのは、平日の午前中でした。その時間の前から、現場でお仕事をされていたそうです。お忙しいなか、いろいろなお話をしていただいた伊藤さん。Shune365さんのご活動はfacebookページでも更新されています。

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会議室に掛けられた、ナデシコを使ったお料理やお菓子の写真。ひな祭りに合わせてコンテストを開催されたそうです。

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ビルの玄関にはこんなお心遣いも。

株式会社Shune365会社概要

  • 所在地:神奈川県秦野市平沢183-10 平沢工場内
  • TEL:0463-82-1831(いいやさい)
  • FAX:0463-82-5552
  • URL:http://www.shune365.co.jp/
1984年生まれ。主にダイニングやカフェ&バーで働いています。そのかたわらでWeb上でのお仕事などもしていいます。以前は自然エネルギー系のIT企業営業、バリスタ、ECショップ運営などしていました。

旅館で働くことの楽しさを日々感じる30代。

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